1 名誉毀損や侮辱による告訴
刑事訴訟法上,告訴は受理義務があるので,警察が告訴状の受け取りを拒むことはできない。しかし,事実上,「預かり」「仮」「参考」といった言葉により,受理を拒まれることがある。なぜ受け取らないかというと,想像するに,警察も忙しいから,ということだろう。告訴を受け取ると捜査しなければならない。
2 IPアドレスを渡した場合
しかし,IPアドレスをこっちで調べて警察に渡すと,かなり迅速に投稿者を調べてくれる。民事訴訟でIPアドレスから投稿者を調べるには数か月を要するところ,警察なら数日から数週間で答えが出る。
それゆえ,IPアドレスの調査までは仮処分でやって,そのあとは警察に引き継ぐ,というのが早いだろう。
3 なぜ違うのか?
では,なぜ告訴状を受け取らない一方で,IPアドレスを渡すと簡単に調べてくれるのか。それは,警察内部での手続の違いによるもの,という話を聞いた。
すなわち,IPアドレスを調べるには令状が必要となるためハードルが高いけれど,IPアドレスから投稿者を調べるのは捜査照会だけで済むため,警察としても動きやすい,ということらしい。
(ただし,後者に令状が必要なプロバイダも存在するとのこと)
4 仮処分にかかった費用
警察さえも動かないのだから,犯人特定にはIP開示の仮処分が必須となる。それゆえ,仮処分にかかった費用は,犯人に損害賠償請求として上乗せすることも可能ではないかという方針で,最近は訴訟活動・交渉活動をしている。
いつも興味深く読ませて頂いています。
ネット上の名誉毀損等に関する情報はまだまだ少ないので、とても参考になります。
昨今、ネット掲示板等に書かれた内容を権利侵害とした民事訴訟が増えていますが、
被害者が更に刑事処罰を求める場合、民事で名誉毀損や侮辱が認められれば、事件性がなくとも警察は動いてくれるものなんでしょうか。
警察が動く基準というものがイマイチわかりません。
コメントというよりリクエストになりますが、
ネットの不法行為(名誉毀損)と警察・刑事事件についての
神田先生のお考えをいつか記事で読みたいです。
投稿情報: カナ | 2011年6 月30日 00:40
事件性がないと動かないでしょうけれど,「立件は難しいけれど,ちょっと声をかけてみますか」というレベルで動いてもらったことはあります。
ご要望については,あまりネタをもっていませんので,随時で。
投稿情報: カンダ | 2011年6 月30日 05:05
ネット巡回でたどり着きました。
プロバイダの場合、IPアドレスの開示には令状を要求するようですが、ECサイトが捜査照会により会員のIPアドレス等の通信ログを開示することは問題があるのでしょうか? ※ヤフーは例の入試事件の際には捜査照会で開示したという記事を読んだ記憶があるのですが。
投稿情報: ワタベ | 2011年7 月18日 03:32
おそらく,任意捜査に応じてECサイトがIPアドレス等を出している,ということではないでしょうか。
ではECサイトが拒んだ場合に令状が必要かどうかですが,おそらく必要と思われます。
このブログを書いたあと,「IPアドレスから会員情報を照会する際にも令状が必要なので,結局令状が必要なことに変わりはない」という情報もありましたし。
投稿情報: カンダ | 2011年7 月18日 14:57
カンダ様、ご回答ありがとうございます。
※私、某サイトの法務関連を担当しております。
現在のところ、拒否理由もありませんので、捜査関係事項照会書に基づきIPアドレスを含む通信履歴についても開示しております。
弊社は、電気通信事業者ではありませんので、令状ではなく、捜査関係事項照会書さえもらえば、IPアドレスを開示しても問題ないだろうと考えていたのですが、最近、それでいいのだろうか?と疑問に思いましてネットで調べていたところであります。
本来であれば、有料で弁護士に相談すべき事柄だとは思うのですが・・・
投稿情報: ワタベ | 2011年7 月21日 00:00