一般的な不法行為訴訟の場合,弁護士費用として認められるのは,認容額の一割程度とされています。たとえば認容額が200万なら,弁護士費用として認められるのは20万,といったイメージです。
そうすると,発信者情報開示請求の場合,最終的には裁判所で認められる損害賠償金(慰謝料など)より弁護士費用のほうが多額になるのではないか,と思われがちです。
この点について,東京高裁平成24年6月28日判決(原審東京地裁平成24年1月31日判決(判例時報2154号80頁)原告代理人清水陽平弁護士)は,「被控訴人は,本件書込をした者を特定するため,弁護士に依頼し,本件書込の電子掲示板の管理者である海外法人に対するIPアドレスの開示仮処分を得て,投稿者のIPアドレスとアクセスログの開示を受けたうえ,IPアドレスから判明したNTTドコモに対する発信者情報開示請求の認容判決に基づき,発信者として控訴人の住所氏名の開示を受けたものであって,本件との相当因果関係が認められ,また,本件における弁護士費用を二重に評価したものではない」として,IPアドレスの発信者情報開示仮処分と住所氏名の発信者情報開示請求訴訟(+削除仮処分+ログ保存仮処分)にかかった私への弁護士費用,全額を投稿者負担(不法行為と相当因果関係のある損害)としました。
考え方は,探偵費用などと似ています。誰が不法行為者なのか探偵に調査を依頼すると損害と認められるのに,弁護士に調査を依頼すると調査費用にならない,という結論ではおかしいというのが問題意識です。
当初,開示請求した弁護士と損害賠償請求する弁護士は,異なるほうが調査費用として認められやすいだろうと考えていましたが,この高裁判決の書きぶりからすると,弁護士が同じでも結論は変わらないものと考えられます。
2013/2/3追記
上記,「弁護士が同じでも調査費用になるか」という点については,別件の地裁判決で全額認められました。
上記高裁判決は,慰謝料100万に対し,調査費用とは別に,弁護士費用を1割の10万載せています。しかし,裁判例に従うならば,弁護士費用は(慰謝料+調査費用)×1割とすべきではないかとも考えられます。この点については,さいたま地裁判決で,慰謝料100万+調査費用全額の1割を弁護士費用としたものも出ています。
2013/3/28追記
上記の高裁判決を示しても,「高裁は理由を示していない」という理由で調査費用を認めない地裁判決があったようです。
ほかの理由付けを考えてみると,まず,IP開示の訴額が160万円,削除の訴額が160万円,住所氏名の開示訴訟の訴額が160万円で,訴額の合計は480万円です。それゆえ,損害賠償請求とこれらの訴訟を全部1つの訴訟で提起したとすると(実際には不可能ですが),1割の48万円まで,調査費用相当の弁護士費用として認められてよいはず,と考えます。
なお,判例検索したところ,慰謝料0の差止請求訴訟において,弁護士費用が100万円と認定されていた裁判例もありました。
2013/4/27追記
大阪地裁では,「無形の損害」の中に開示費用を含めるものが出ています。いろいろな損害の1つとしての開示費用なので,はたして開示費用が全額認められているのか,内訳は不明です。
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