PACKETMONSTERは,シンガポール企業。2ちゃんねるを運営している,とされている。
さてそうすると,2ちゃんねるでの投稿についてIP開示仮処分,削除仮処分を申立てようという場合,どうすればよいのか。
(この記事は随時再編集しています。おもに同業者向けに書かれていますので,法律用語などは分かりにくいかもしれません。)
2010年5月5日,2ちゃんねる運営者と思われる人物から「今後は債務者パケモンでなければ削除しない」旨の通知が2ちゃんねる上で出ていました。
そのため,2ちゃんねる案件(仮処分)における債務者は,パケットモンスター社だけとなるでしょう。
(1)パケモンの現在事項証明書相当の書面
入手して,訳文を付けて裁判所に提出します。一時期コピーでもよいという運用もありましたが,現在は原本でないと受理しないようです。
訳文で書いた会社名,代表者名(カタカナ表記)を当事者目録でもそのまま書きます。
SECRETARYは,日本法にない「秘書役」という役職で,代表権はないらしいです。
(2)管轄
パケモンは日本に営業所がないので,主たる業務担当者の住所が管轄地になります。
主たる業務担当者が東京に住んでいることを疎明すれば,東京に管轄が行きますし,主たる業務担当者が札幌にいると疎明すれば,札幌に管轄が行きます。
また,不法行為地の特別裁判籍で申し立てをした例もいくつかあるようです(別の記事参照,大阪,名古屋,福岡など見ました。)。
(3)申立
パケモンは海外企業なので,原則として海外送達となります。
しかし,それでは時間がかかってしまうので無審尋上申をします。また,送達については送達遅らせ上申をします。
なお,担保は現在30万円です。
(3-1)ミラーサイト
記事目録に,2ちゃんねるのミラーサイトのURLが書かれている決定正本を複数見かけました。
ドメインが「2ch.net」であってもパケットモンスター社が運営していない掲示板もありますが,少なくとも,ドメインが「2ch.net」ではない掲示板は,パケットモンスター社の管理・運営を疎明することは難しいのではないかと思います。
(3-2)携帯電話用のアドレス
2ちゃんねるでは,「c.2ch.net」で始まる掲示板もありますが,これは携帯電話用のアドレスなので,目録にはPC用のアドレスだけ書いておけば足るでしょう。
(3-3)新サーバー
2ちゃんねるのサーバー環境が変わり,旧サーバーから新サーバーへ置き換わった場合,旧サーバーと新サーバーの両方を目録に書かないと,削除の場合は目的を達成できないかもしれません。
なお,新サーバーだけ決定をもらって,旧サーバーは任意のやり取りで削除してもらった弁護士さんもいました。
この記事だとちょっと分からない・・・という人は,福岡の山根弁護士の記事「ネット上での誹謗中傷(2)」もご覧ください。“神田知宏先生のブログ「IT弁護士カンダのメモ」 においてご紹介されている手法と同じでございます。”と書いていただいていますが,より詳細で分かりやすいと思います。
最近、削除については、法人格否認の法理で西村氏を債務者と
した仮処分を申し立てて、認められたケースあるようですね。
ただ、その仮処分決定のPDFがアップされて2日ほど経過してい
ますが、まだ書き込み自体は削除されていないようです。
その後、民事9部から新たな情報の提示はあったでしょうか?
投稿情報: ma21195 | 2009年8 月21日 16:50
情報ありがとうございます。
法人格否認の法理ですか。ずいぶん荒技を使っていますね。
おそらくパケモンの法人格を否認して,背後にいる西村氏を債務者ととらえたのでしょう。
それなら,シンガポールもパケモンもまったく相手にする必要ありませんね。
民事9部ではないですが,ほかの裁判官に聞いてみたところ,法人格否認の法理は基本的に認められにくいので,よっぽどうまく疎明したのだろう,とのことでした。
投稿情報: 神田知宏 | 2009年8 月21日 18:32
コメントありがとうございます。
先生は、2ちゃんねるにアドレスがアップされていた8月6日付仮処分決定はご覧になったですか?
債務者の件もさることながら、削除対象書込の文言を見ても、個人が特定されているとは思えず、このような内容の書込(しかも既になされた書込のコピペ)でも、仮処分が認められるんだー、と認識を新たにしました。
先生の4月16日付「カキコは独立していないのに」で言及されていた発信者情報開示では、仮処分が認められなかったとのことでしたので、開示の仮処分と削除の仮処分とでは疎明のレベルや裁判官の判断プロセスが異なるということなのでしょうか。
投稿情報: ma21195 | 2009年8 月23日 15:32
裁判官は自分自身の判断で「疎明十分かどうか」を判断しますから,IP開示仮処分に限れば,裁判官に当たり外れがありますね。
4月16日の件は東京地裁ではなかったのですが,どうやらIP開示仮処分が初めてだったようで,「東京地裁に問い合わせたら,基準はこうだった」的なことを言われ,ガチガチに判断された感があります。
「東京地裁では,この疎明資料で通っているのですが・・・・」とは言ってみましたが,あんまり聞いてもらえませんでした。
投稿情報: 神田知宏 | 2009年8 月23日 16:35
先日、西村氏を債務者とした仮処分決定について
> 仮処分決定のPDFがアップされて2日ほど経過してい
> ますが、まだ書き込み自体は削除されていないようです。
と書きましたが、本日、対象の書き込みが削除されました。
私が知る限りにおいては、パケモンへの譲渡以降、債務者がパケモンになっている決定と、西村氏になっている決定とがありましたが、結局、両方とも削除人によって該当書込は削除されましたので、削除人にとっては、誰が債務者なのかは、重要でないのかもしれません。
発信者情報開示のほうも、法人格否認や、西村氏を主たる業務担当者であることを疎明すれば(実際に、雑誌のSPAでは、西村氏は2ちゃんねるアドバイザーとして紹介されている)、日本の裁判所でも仮処分は認められそうですが、削除の場合のように、「有料サーバに仮処分決定PDFをアップし、削除依頼板に書き込む」だけでは、開示されないようです。削除の権限とIP開示の権限とは別物であるらしく、削除人はIP開示の権限をお持ちではないらしいのです。IP開示のほうは、一筋縄ではいかないようですね。
投稿情報: ma21195 | 2009年9 月 4日 16:44
なるほど,貴重な情報をありがとうございました。
まだまだ弁護士たちも試行錯誤のようですが,今後,方向性が固まっていくのかもしれません。
いただいた情報を参考にさせていただきます。
投稿情報: 神田知宏 | 2009年9 月 4日 16:53
追加情報です。
9月4日付の発信者情報開示と削除の仮処分決定(債務者:パケモン)がアップされていました。債権者(と思料される方)の書込によれば、掲示板に開示依頼を書くとともに、2ちゃんねる管理者メールアドレスにも決定のPDFを送ったようです。この決定に対する2ちゃんねる側の対応について進展があればまた書きます。
投稿情報: ma21195 | 2009年9 月10日 14:18
パケモンが債務者という構成でも仮処分が出ているのですね。
シンガポール問題は,どうやって回避したのでしょう。
なかなか興味深いところです。
投稿情報: 神田知宏 | 2009年9 月10日 17:58
パケモンの現在事項証明書相当の書面はどうやって取得するのでしょうか。
投稿情報: naga | 2010年10 月15日 20:09
2008年夏季に2ch掲示板にて、実名入りで中傷されました。
訴訟をしたいのですが、今現在シンガポールに会社があるとの事、どのように訴訟を起こせばよいのでしょうか?
投稿情報: AI | 2011年3 月18日 14:53