1.ウェブページの犯罪報道記事に対する削除請求権
2011年1月のブログでも書いた話ですが,昨年,東京高裁判決(取消差戻)が出ていますので,紹介しておきます(判例集未登載)。2.東京高裁平成26年4月24日判決
「ある者が刑事事件につき被疑者とされ,さらには被告人として公訴を提起されて判決を受けたという事実は,その者の名誉あるいは信用に直接かかわる事項であるから,その者は,みだりに当該事実を公表されないことにつき法的保護に値する利益を有するものというべきところ,上記有罪判決において刑の言渡し及び刑の執行猶予の言渡しを受けた後,刑の執行猶予の言渡しを取り消されることなく猶予の期間を経過し,刑の言渡しが効力を失った後においては,その者は,前科等に関わる事実の公表によって新しく形成している社会生活の平穏を害されその更生を妨げられない利益を有するというべきである(最高裁平成元年(オ)第1649号同6年2月8日第3小法廷判決民集48巻2号149頁参照)。もっとも,その者が選挙によって選出される公職にある者あるいはその候補者など,社会一般の正当な関心の対象となる公的立場にある人物である場合において,その者が公職にあることの適否などの判断の一資料として前科等にかかわる事実が公表されたときはもとより,刑事事件それ自体を公表することに歴史的又は社会的な意義が認められるような場合,その者の社会的活動に対する批判ないし評価の一資料として前科等にかかわる事実が公表される場合には,実名使用の意義及び必要性を考慮し,総合的に判断して違法とはならないこともあるというべきである(上記第三小法廷判決参照)。そして,このことは,有罪判決の言渡後長期間経過後に前科等にかかわる事実が公表された場合だけでなく,有罪判決以前にウェブサイトの掲示板に被疑事実に係るウェブページが作成され,そのまま閲覧可能な状態に置かれて長期間経過した場合にも当てはまるのであり,この場合において,ウェブページ作成後社会通念上相当な期間閲覧可能な状態に置いておくことは違法とならないが,刑の言渡し及び刑の執行猶予の言渡しを受けた後,刑の執行猶予の言渡しを取り消されることなく猶予の期間を経過し,刑の言渡しが効力を失ったときは,当該時点以後は,その後のその者の生活状況に照らし,その者が有する,前科等にかかわる事実の公表によって新しく形成している社会生活の平穏を害され,その更生を妨げられない利益が損なわれることとなることを否定することはできないから,このことと,事件それ自体の歴史的又は社会的な意義,その者の政治的又は社会的地位の重要性,その者の社会的活動及びその影響力,ウェブサイトの目的,性格等に照らした実名使用の意義及び必要性とを総合的に比較考量し,上記の更生を妨げられない利益が優越すると判断されるときには,その者はウェブサイトの管理運営者に対し,当該ウェブページを削除することを請求することができるものと解するのが相当である(上記第3小法廷判決の法理は上記の場合にも当てはまるものと考えられる。)。」3.要約
(1) 対立利益a)更生を妨げられない利益
b)知る権利・表現の自由
(2) 削除請求権
更生を妨げられない利益が表現の自由・知る権利に優越するときには,ウェブサイトの管理運営者に対し,当該ウェブページの削除を請求できる
(3) 時の経過について
a)有罪判決後長期間経過後に掲載された場合だけでなく
b)有罪判決以前にウェブサイトに被疑事実が掲載され,そのまま閲覧可能な状態に置かれて長期間経過した場合にも当てはまる
(4) どのくらいの期間で削除請求権が生じるか
言及なし
東京地裁民事9部の運用(感覚値)については,2011年1月のブログをご覧下さい。
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